不埒未満

日頃から言っている“不埒禁止”。
それは彼の進路を邪魔しないためであり、高校生と中学生という埋まらない壁に挟まれた互いの立場を守るために敷いた令でもある。

沈黙を破ったのは彼だった。
「不埒ってどこからなんでしょうね」
私はじりじりと壁際に追い詰められた。

表情はいつも通りだけれど、気が立っているのを隠そうとしていない。
その証拠に私は壁と左腕に阻まれて逃げ場を失っている。
“糸が張り詰めた様子”っていうたとえ、きっとこういう時に相応しいんだろうな。

声を顰めて「先輩はありますよね。不埒な経験」と発した。
ああ、その不公平を訴えていたのか。
「俺は駄目で他の男はええの?」
糸をさらにきつく締め上げるような感覚に少し怯み、目を伏せた。
「キミのことを守りたいから必死で我慢してるんだってば」と続ければ、「肝心な俺の気持ちが守られてないんですけど」

そして改めて問われる。
「不埒ってどこからですか」

ちょうど20cm上から降ってくるやるせなさと苛立ちを孕んだ声色に、唾を飲み、喉が鳴った。
「服から隠れてる場所は触れたら駄目。高等部に上がるまでは」保健体育で習ったであろうプライベートゾーンのことを指したつもりだった。
「先輩はそういう事してたんや」
墓穴だった。敬語が崩れている。
「今はもうないし、これからもない」
「俺は今まで誰ともないのにな」
納得するまで解放してもらうことはできなさそうだ。

「例えば」
右手が下へ伸びる。
「ここは」
私はどうして制止しないんだろう。
「見えてるからええんよな?」
スカートから覗く内腿を、円を描くように撫でられた。
それより上へ決して侵入して来ないのは、ひとかけら残った理性だろうか。
ここまでされたら拒めない。どうしてくれたって構わないのに。
期待している自分の存在に気付いて、身体が汗ばんでいく。

思案を巡らせている間も同じ場所ばかり手で弄られ続ける。焦れったい。本当は我慢してると伝えたばかりなのに、彼は煽るのを止めない。

(もういっか。不埒とか、どうでも)

そう口から出かけたところで、耳元へ囁かれた言葉で現実に引き戻された。
「これなら不埒じゃないもんな」

張り詰めていた糸はどこかへ消えていた。

ゆるゆると拘束を解き、外の暗さを確かめると「遅くなってもうた、堪忍してください。送って行きます」そう取り繕うように言われた。

彼の本当の意図は、一線を越える事ではない。
余裕そうな私に一泡吹かせることだったのだ。

私、いま“お姉さん”を保ててる?
彼の満足気な表情を見るに、答えは自明だった。

夢で会えた日
2023/12/26